冬のプレつどい 2日目 嘉陽真美医師 講演

目次
講演の出発点――「一人ひとりの人生から考える医療」
医学生のつどい2日目は、沖縄県民主医療機関連合会会長であり、糸満協同診療所所長の嘉陽真美医師による講演が行われました。嘉陽医師は冒頭、「医療は病気だけを見るものではなく、その人の人生や暮らしを丸ごと受け止める営み」だと語り、沖縄の医療現場での経験をもとに話を進めました。
沖縄が抱える健康課題と、その背景
沖縄は美しい自然や独自の文化をもつ一方で、生活習慣病、アルコール問題、交通事故、精神的ストレスの高さなど、さまざまな健康課題を抱えています。嘉陽医師は、これらの問題を「個人の努力不足」として片づけるのではなく、戦争の記憶、基地の集中、経済構造、貧困といった社会的背景が複雑に絡み合っていることを丁寧に説明しました。
とくに沖縄では、子どもの貧困率の高さや進学機会の格差が、将来の健康や生き方にまで影響している現状があり、健康は医療だけで完結しないことが強調されました。
基地問題と健康――医療現場から見える現実
講演では、米軍基地が集中する沖縄ならではの問題にも踏み込みました。騒音、事故、性暴力、環境汚染などが繰り返されるなかで、住民の不安やストレスが健康に影響を与えていること、そしてそれが診察室に持ち込まれている現実が語られました。
「事故が起きていなくても、いつ起こるかわからないという状況自体が、決して平和ではない」。この言葉は、平和を「戦争がない状態」ではなく、「安心して暮らせる状態」として捉え直す視点を、参加者に投げかけました。
構造的暴力と、診察室で向き合う医師の役割
嘉陽医師は、貧困や差別、基地問題などを「構造的暴力」と表現しました。これらは目に見えにくい形で人々の健康を蝕み、症状として医療機関に現れます。医師は、検査データや診断名だけでなく、その背後にある生活背景や社会構造に目を向ける必要があると語られました。
そして、気づいたときに一人で抱え込まず、多職種や地域とつながることの大切さが、具体的な実践とともに紹介されました。
どこまで関わるのか――医療者のリーダーシップ
「医療者は、どこまで社会問題に関わるべきなのか」。嘉陽医師はこの問いに対し、明確な正解はないとしつつも、関わり方には段階があると説明しました。まず知ること、学ぶこと、身近な人と話すこと、診療で背景に気づくこと、そして必要に応じて地域や社会に声を届けること。それぞれが自分にできるレベルで関わればよいのだと語りました。
医学生へのメッセージ――小さな行動から始める
講演の最後に嘉陽医師は、医学生に向けて「医師免許がリーダーシップを決めるわけではない」と伝えました。患者さんの一言に耳を傾けること、違和感を言葉にすること、仲間と共有すること――その一つひとつが、社会を変える力につながるといいます。
医学生のつどい2日目は、医療を通して社会とどう向き合うのかを深く考える時間となり、栃木から参加した医学生へも「一人ひとりの人生から考える医療」という言葉が静かに刻まれました。
医学生からは、「沖縄の問題をこれまで十分に自分事として考えてこなかったことに気づいた」「日米地位協定や基地問題が、騒音や事故といった個別の問題ではなく、戦後の歴史や主権の問題と深く結びついていると理解できた」といった声が寄せられました。学ぶことから始め、仲間と話し、伝えていくという段階的な関わり方を知り、「今の自分にできる一歩を考えたい」と前向きに受け止める感想が多く聞かれました。
