冬のプレつどい 1日目 伊藤真弁護士 講演

講演のテーマ――憲法は「いのち」を守る土台

医学生のつどい1日目は、弁護士で伊藤塾 塾長の伊藤真さんを講師に迎え、「憲法」を切り口に、平和と人権、そして医療のあり方を考える講演が行われました。伊藤さんは、憲法を“遠い政治の話”ではなく、私たちの日常や医療現場に直結する「いのちを守るための土台」として捉え直すことを呼びかけました。

 

憲法は「国民が権力に突きつけた命令書」

講演の中心に据えられたのは、「憲法は法律の一種」といった理解を超えて、憲法が本来もつ役割をつかむことでした。伊藤さんは、憲法は国民を縛るためではなく、国家権力が暴走しないように“縛りをかける”ためにある、という立憲主義の要点を丁寧に説明しました。立場の強い者や多数派が常に正しいとは限らないからこそ、憲法が歯止めとして働き、「おかしい」と声を上げ、社会を変える拠り所になる――その視点が示されました。

 

13条・25条――個人の尊重と生存権

続いて伊藤さんは、憲法の根底にある「個人の尊重」を軸に、13条(幸福追求権)と25条(生存権)に光を当てました。13条は、誰もが“オンリーワン”の存在として大切にされ、自分らしく生きることを支える条文であること。25条は、病気やけが、介護などで働けない状況があっても「働かないのが悪い」と切り捨てることは許されず、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障する条文であることが語られました。命に格差があってはならない――この言葉は、医療に関わる私たちにとって、まさに原点となるメッセージでした。

また、民医連が掲げる「無差別・平等の医療と福祉」の理念は、憲法が大切にしてきた基本的人権の尊重や生存権の考え方と深く一致していることも紹介されました。憲法を学ぶことは、民医連の実践を支える価値観を、もう一度自分の言葉で確かめ直す作業でもあります。

 

9条と平和主義――医療と戦争をつなげて考える

9条については、戦争の放棄、戦力不保持、交戦権の否認という内容だけでなく、戦争によって膨大な命が失われた歴史、そして「二度と戦争をしてはいけない」という切実な願いが重なって現行憲法が生まれた経過が語られました。9条の精神は国際社会でも評価され、平和や友好に貢献してきた――その見方は、医療者として「平時の医療」を守るだけでなく、「戦争を起こさせない社会」を考えることの重要性につながります。

 

改憲の手続きと国民投票――「決まり方」への問題提起

講演では、憲法改正の“中身”だけでなく、“決まり方”にも大きな論点があることが示されました。国会での発議(総議員の3分の2以上)から国民投票へ進む仕組み、そして国民投票が「有効投票の過半数」で決まることから、投票率が低い場合に少数の賛成で改正が成立し得る点が指摘されました。

さらに、国民投票までの期間が短いこと(発議から投票まで約60日という説明)や、国民投票運動の規制のあり方、最低投票率の規定がない点、企業や外国資本が宣伝に関与し得る点など、民主主義の根幹に関わる課題が投げかけられました。憲法をめぐる議論は、「賛成か反対か」に急いで回収されがちですが、その前提となる手続きの公正さを問い直すことが不可欠である――そんな問題意識が共有されました。

 

「台湾有事」と存立危機事態――集団的自衛権をどう捉えるか

伊藤さんは、近年の情勢の中で語られがちな「台湾有事」や「存立危機事態」という言葉にも触れ、集団的自衛権とは何かを具体的に説明しました。自国が攻撃されていないにもかかわらず、同盟国(例として米国)を助ける名目で相手国を攻撃し得る――それが集団的自衛権の行使であり、「日本が先に攻撃する戦争」へつながる危険性があるという論点が示されました。難しい言葉を“ふんわり”理解したまま世論が形成されていくことへの危うさも含め、医学生としても「用語の意味を自分の頭で確かめる」姿勢の大切さが語られました。

 

まとめ――医学生として、社会と向き合う力を育てる

今回の講演は、憲法を暗記する学習ではなく、「なぜ憲法が必要なのか」「誰のために、何を守るのか」を、自分の生活と医療の現場に引き寄せて考える時間となりました。個人の尊重、生存権、平和主義――それらは理念にとどまらず、医療の根っこを支える価値観です。医学生のつどい1日目は、将来医療に携わる私たちが、社会の動きに流されず、根拠と人権の視点から判断し行動する力を育てるための、大切な出発点となりました。また、栃木から参加した医学生からは「関心をもたないこと自体が問題を見えなくしている」という指摘や、「主権者として自分の考えをもち、声を上げる教育が日本では十分に行われてこなかったこと」への気づきも語られました。