「9条の碑」から平和の願いを次世代へ 国際ジャーナリスト伊藤千尋さんが来訪

▲ 宇都宮協立診療所前に建立された「9条の碑」。左から伊藤千尋さん、宮本専務、工藤事務局長。

■ 国際ジャーナリスト・伊藤千尋さん来訪

11月初旬、国際ジャーナリストの伊藤千尋さん(日本記者クラブ会員、「九条の会」世話人)が、栃木保健医療生活協同組合に建立された「9条の碑」を取材のために訪問されました。伊藤さんは新聞記事でこの碑のことを知り、「ぜひ現地の方々の思いを聞きたい」との思いから栃木を訪問されました。

対応したのは、法人専務の宮本さんと栃木県民医連工藤事務局長です。伊藤さんは全国各地の「9条の碑」を取材されており、今回は栃木で初めて建立された碑を現地で取材されました。

 

 

■ 「9条の碑」建立の背景と想い

「9条の碑」建立のきっかけは、全日本民医連創立70周年の呼びかけでした。全国で平和への願いを形にする動きが広がる中、栃木でも「法人50周年を機に9条の碑を建てよう」との声があがりました。

1975年、宇都宮協立診療所は「すべての県に民主的な診療所を」という全日本民医連の呼びかけに応じて設立されました。地域住民や労働組合の支援で出資金を集め、わずか一軒の診療所から始まった歩みです。医師不在で倒産寸前になった時期もありましたが、全国の民医連の支援で立て直し、現在まで地域に根ざした医療を続けています。

その原点にある「人間のいのちを守る」という理念を次の世代に伝えたい――その思いが、「9条の碑」建立の原動力でした。

 

 

■ 民医連の歩みと地域の支え

法人創立50周年を迎えるにあたり、栃木民医連では「調べる・学ぶ・祝う」をスローガンに、過去の歴史を振り返るとともに、平和と憲法を考える取り組みを重ねてきました。

設立当初の厳しい経営を支えた地域住民、他県から応援に駆けつけた医師たち。そうした人々の思いに触れる中で、職員たちは「私たちが今あるのは地域とともに歩んできたから」と語ります。

▲工藤事務局長(左)伊藤さん(右)取材様子。平和と医療のつながりについて語り合いました。

 

 

■ 憲法を学び、語り継ぐために

建立の過程では、「そんなものにお金を使うなら職員の処遇改善を」との声もありました。そこで行われたのが、久保田貢教授(愛知県立大学)を講師に迎えた憲法学習会です。教授は「憲法は国民が守るものではなく、国に守らせるもの」と説き、その意義をわかりやすく語りました。

参加した職員からは「憲法が自分たちの仕事の土台だと実感した」との声が上がり、学びを通して「9条の碑」建立の意義が職場に浸透していきました。

 

 

■ 伊藤さんが語る「9条の碑」世界の広がり

取材の中で伊藤さんは、ご自身が世界各地で見てきた「9条の碑」について紹介されました。最初に出会ったのは、なんとアフリカ沖・カナリア諸島にある「憲法9条の碑」。スペインの市長が「広島・長崎の教訓を平和の象徴に」と建立したものだといいます。

「世界の人々が日本国憲法を平和の象徴として受け止めている。憲法9条は、過去を振り返る碑ではなく、未来に向かう碑なんです」と伊藤さん。

日本国内でも、沖縄・読谷村をはじめ各地で市民の手による碑が建てられており、ここ数年は急速にその数が増えています。2022年時点で全国に約20ヵ所だった碑は、2025年には40を超える見込みだそうです。

 

 

■ 「作る」から「活かす」へ――これからの平和運動

伊藤さんは「9条の碑は“作って終わり”ではない。これからどう活かしていくかが大切」と語ります。10月に東京で開かれた『全国9条の碑交流サミット』でも、参加者たちは「碑を平和を語り合う場にしていこう」と意見を交わしたそうです。

栃木での取り組みについては「地域に根差した医療機関からこのような碑が生まれたことはとても意義深い。若い世代も参加して作り上げた点に希望を感じます」と感想を寄せられました。

「9条の碑」は、これからも地域の人々とともに、平和への願いを次の世代へと語り継いでいく拠点となることでしょう。


(取材・文:栃木民医連事務局 工藤)