目次
- 民医連の病院で“医療の原点”を学ぶ
- オリエンテーションで見た、研修医の“はじまりの一歩”
- 「なぜ差額ベッド代を取らないのか」から始まる、医療の原点の問い
- SDH(健康の社会的決定要因)と向き合う実践の場
- 「どう生きたいか」を考える実習体験
- 医学生向けQ&A
民医連の病院で“医療の原点”を学ぶ
「医療は誰のためにあるのか」――民医連の病院は、その問いに真正面から向き合う場です。
――医学部5年生・Sさん、立川相互病院で2度目の実習に参加
この夏、栃木の医学生Sさん(医学部5年生)が東京・立川相互病院にて、2度目の実習を行いました。Sさんは将来、民医連の病院で初期研修を受けることを希望しており、今回の実習では、改めて医療者としてのスタート地点に立つ場所としての「病院のあり方」を自身の目で確認する目的がありました。
前回の実習に続き、今回は研修医の導入期研修を中心に見学し、民医連の病院で育まれる「人間中心の医療」と「チーム医療」、そして「社会とともにある医療」を体感することとなりました。
オリエンテーションで見た、研修医の“はじまりの一歩”
立川相互病院での実習は、オリエンテーションの見学からスタートしました。ちょうどこの時期は新卒の初期研修医たちが導入期研修の真っただ中。患者をまだ持たず、医師としての“土台”を築く期間です。
医師としての技術や知識だけでなく、患者さんとの接し方、チームの一員としてのマナーや姿勢を学びながら、看護師や事務職員、リハビリスタッフなど他職種との連携を体感していく研修内容は、民医連の医療の特徴を色濃く映し出していました。
中でも印象的だったのは、「屋根瓦式」と呼ばれる指導体制です。1人の研修医に対して若手・中堅・ベテランの医師が連携して支えるこの方式は、単なる知識伝達ではなく、悩みや不安に寄り添いながら成長を促す仕組みとして機能しています。
Sさんは、若手医師の立場からリアルなアドバイスを受けられること、そして安心して「わからない」と言える雰囲気に、安心感と信頼を感じている様子でした。
「なぜ差額ベッド代を取らないのか」から始まる、医療の原点の問い
研修の中では、立川相互病院の歴史や理念についても語られました。「なぜ無料・低額診療制度を続けるのか」「なぜ差額ベッド代を取らないのか」――民医連の病院で大切にされている問いの背景には、戦後間もない時代、医療にかかれない人々が少しずつお金を出し合って病院を作った、という歴史があります。
立川の地もまた例外ではありません。旧日本軍の基地跡地にできたこの地域は、かつて闇市や歓楽街が立ち並び、多くの人が生活困窮の中で生きていました。そうした人々とともに地域の診療所を立ち上げてきた過去が、今もこの病院の礎となっているのです。
「医療は誰のためにあるのか」「本当に困っている人に手を差し伸べるには、何が必要か」。民医連の病院での実習は、医学部では教わらない問いを自然と学生に投げかけます。Sさんも「制度や歴史の背景を知ったことで、医療の意味が深まった」と語っていました。
SDH(健康の社会的決定要因)と向き合う実践の場
立川相互病院では、SDH(Social Determinants of Health=健康の社会的決定要因)に基づいた医療実践が行われています。患者さんが病気を抱える背景には、貧困、孤立、住環境、労働環境、教育、家族関係など、様々な“社会”が横たわっています。
病気の診断・治療だけでなく、その人の生活背景を見据えた医療を行うため、院内では「アドボカシー研修」や「地域診断」などの取り組みが日常的に行われています。
例えば、ある20代の女性患者の事例では、幼少期からの虐待や貧困の経験が健康に大きな影響を与えていたことが共有され、参加者たちは「もっと早い段階で支援できなかったか」と真剣に議論しました。
Sさんも、医療者が“制度の代弁者”となって動く姿勢に共感し、「困っている人の声を社会に届けるのも、医療者の役割なのだと感じた」と話してくれました。
「どう生きたいか」を考える実習体験
実習の終盤では、研修医たちの救急対応や当直の様子も見学しました。指導医が必ずそばに付き、段階的にひとり立ちを目指す体制が整っており、1人で抱え込ませない安心の土壌がありました。
また、地域の住民組織「友の会」や原水爆禁止世界大会への参加など、平和や社会参加に関する取り組みも紹介され、Sさんは「医療だけにとどまらず、社会とつながる姿勢に胸を打たれた」と語っていました。
「医師としてどこで働くか」ではなく、「どう働きたいのか」「どんな医療をつくっていきたいのか」――民医連の病院は、そんな問いを自分自身に向き合わせてくれる場です。
Sさんは「お年寄りの暮らしに寄り添いながら、総合診療医として地域で役立つ医師になりたい」と語っており、今回の実習は、その決意をさらに深める機会となったようです。
医学生向けQ&A
Q1. 今回の実習先はどんな病院でしたか?
A. 東京・立川市にある「立川相互病院」で実習しました。民医連の病院として、地域の人々に開かれた無差別・平等の医療を行っています。
Q2. どんなことを体験しましたか?
A. 初期研修医の導入期研修を中心に見学しました。医療技術だけでなく、チーム医療や多職種連携の大切さを学ぶ場でした。
Q3. 民医連の病院の特徴って?
A. 無料・低額診療制度、差額ベッド代を取らない方針、歴史ある住民参加型の病院運営など、「誰でも医療を受けられる」仕組みが徹底されています。
Q4. 印象に残ったことは?
A. SDH(健康の社会的決定要因)を意識した取り組みや、アドボカシー研修などが非常に印象的でした。
Q5. 政治的なイメージがあるけど大丈夫?
A. 「社会的弱者を見捨てない医療」を実践する中で、制度や政策にも働きかけていますが、実際には柔軟で温かい職場という印象でした。
Q6. 今後の進路は?
A. 地域に根ざした総合診療医を目指しています。立川相互病院での実習は、その決意を深める大きなきっかけになりました。