福島第一原発事故の“いま” — 進まぬ復興、取り残される住民
2025年6月23日〜24日、関東地協憲法・社保・平和委員会主催の「東京電力福島第一原発視察と被災地を巡るバスの旅」に、栃木民医連から工藤事務局長が参加しました。
今回の視察では、いわき市民訴訟などで活動を続けるガイド・菅家新さんから、事故発生から13年を迎える現地の状況を詳しく伺うことができました。
いまだ解決されない数々の問題、復興政策のゆがみ、そして困難な暮らしを続ける住民の声がひしひしと伝わってきました。その内容を中心にご報告します。
■ 「現地を見てもらわなければ伝わらない」
菅家さんは、事故後のいわき市民訴訟を支える中で「現地視察の重要性」に気づき、未熟ながらもガイド活動を始めたと語ります。
「現地を見なければ伝わらないことがある。事故前からの経過を知り、今どうなっているのかを見てほしい」と。そうした強い思いで、県内外からの視察受け入れを続けてきました。
■ 分断された地域と、危険な避難経路
福島県は浜通り・中通り・会津に分かれており、もともと地域間の交流は多くなかったそうです。そこへ原発事故が発生。主要道路は遮断され、住民たちは山道を通って避難するほかありませんでした。
浪江町では福並線(国道114号)が唯一の避難路となり、谷間を通って逃げる形となった結果、放射線量の高い雲とともに避難せざるを得ない状況が生じました。これは後の「スピーディ」データで裏付けられています。
住民たちが、命からがら逃げたその先でも被ばくの不安は続きました。今なお後遺症の影響を心配しながら暮らす方々も多いとのことです。
■ 「復興」は住民のためになっていない
菅家さんは、「いま進められている“復興”が果たして誰のためのものなのか」と問いかけます。
箱物施設は増え、インフラ整備も一見進んでいるように見えます。しかし実態は「自治体と企業のための復興」であり、住民一人ひとりの生活再建は進んでいない。
元の住民が帰還する見通しは立たず、代わりに企業誘致を進め、移住者を呼び込んで「住民ゼロの自治体をなくす」ことに注力しているとのことです。
これは、住民の暮らしよりも統計数字を重視した政策といえるでしょう。「復興」の掛け声の裏に、住民の困難が見えにくくなっている現状が浮き彫りとなりました。
■ イノベーションの名のもとに進む開発
「イノベーションコースト構想」という名のもと、ロボット・無人機・AI開発が進められています。広大な土地を活用した開発は、軍事利用の意図も含まれているのではと菅家さんは懸念します。
「原発政策で土地を奪われ、今また『復興開発』名目で土地をさらに活用されている。本当に住民のための復興になっているのか疑問だ」と語りました。
■ 再生エネルギーの矛盾
乱立する風力発電・メガソーラーも、地元への恩恵はほとんどないそうです。発電された電力は東京電力に送電され、地域の電力自給には繋がっていません。
「地産地消ではなく、かつての原発と同じ構造。地域に残るのは環境破壊だけ」という現状も、今回改めて知ることができました。
■ 農業再生も進まず
農業もまた困難が続いています。復活を目指してコメ作りが再開されましたが、出荷先は北海道など県外となり、地元では売れない状況。
「収穫しても地元で消費できない。農業者の誇りや生きがいまで奪われている」と話されていたのが印象的でした。
■ 栃木民医連として
今回の視察を通じて、原発事故の被害は今も終わっていないこと、住民の困難な暮らしと復興の矛盾が深く残っていることを痛感しました。
「復興」という言葉の裏に、見えにくくされている住民の声に耳を傾け、これからも原発ゼロの社会づくりに向け、被災地とともに歩んでいきます。