医学部奨学生学習会を開催

SDHを通して考える「子ども時代の格差」と医療者のまなざし

栃木民医連では、5月、医学部奨学生を対象とした学習会を開催しました。今回のテーマは「健康の社会的決定要因(SDH:Social Determinants of Health)」の視点から、「子ども時代の格差」を見つめ直すというものでした。

医療において、病気や健康を“個人の責任”にとどめず、社会や経済の構造的背景から捉える視点は今、ますます重要となっています。今回の学習会では、資料として厚生労働省やユニセフ、日本財団などの公的データを読み解きながら、子どもたちが生まれ育つ環境とその後の人生との深いつながりについて、参加者同士が活発な意見交換を行いました。

 


貧困と健康はどのように結びついているのか?

学習会の中では、親の就労形態によって乳児死亡率が大きく異なるデータ(最大で10倍以上の差)や、児童相談所に保護された子どもたちの多くが就学前の幼児であるという統計を確認しました。

また、「ステップファミリー」「経済的困難」「親の精神疾患」など、虐待や育児放棄が起こりやすい背景として複数のリスク要因が重なっていること、そして保護された子どもが、安心できる環境に身を置いた瞬間から急速に成長・発達を取り戻す例も紹介されました。
「子ども自身には何の責任もないのに、家庭や社会の事情によって命や人生が左右されてしまう」——この現実に、参加した学生たちの表情は真剣そのものでした。


奨学生の声から見える“気づき”と“まなざしの変化”

学習を通して学生たちは、貧困の中で暮らす子どもたちの視点に想像を広げ、次のような感想を寄せました。

「貧困層と直接接点がなかった自分にとって、毎日を生きるだけで精一杯の子どもが勉強や将来に目を向けられないという現実は衝撃的でした」
「高校の無償化だけでは進学につながらない。『貧困の連鎖』を断ち切ることの難しさを実感しました」

「教育格差の大きさに初めて気づきました。日本が先進国の中でも格差が大きい国であると知り、深刻さを再認識しました」
「乳児死亡率と家庭の経済状況の関係には驚きました。“子どもは悪くない”というけれど、その親もまた、格差の中で生きてきたのだとわかり、世代を超えた連鎖の重みを感じました」

後半のディスカッションでは、相対的貧困や就学援助制度、見えにくい支援の限界について意見が交わされました。「学費の無償化だけでは不十分で、生活そのものを支える支援が必要」「自分の身の回りにはいないが、社会には“見えない格差”を抱える子どもが多くいる」など、制度的・構造的な課題に目を向ける声が印象的でした。


今後に向けた問いと希望

学習会の最後には、「今後学びたいこと・取り組みたいことは?」という問いかけも行われました。学生たちからは以下のような前向きな意見が寄せられました。

「日本にある貧困層への支援制度をもっと知りたい」
「他国の教育格差への取り組みと比較して、日本の改善のヒントを探したい」
「医療者として、“病気の背景”に寄り添える視点を持ち続けたい」

日々の生活の中では見えにくい格差の実態に目を向け、背景にある社会的要因を読み解こうとする学生たちの姿勢に、次世代の医療者としての成長が垣間見えました。


医療者を志す奨学生たちへ

「なぜこの人は病気になったのか?」という問いに対して、「不摂生だから」「自己管理が足りないから」と片づけるのではなく、その人の暮らしや家庭環境、就労状況、学歴、地域など多角的な視点をもって理解しようとすること——それが、SDHの視点です。

医療とは、単に病気を治療することにとどまらず、背景にある“暮らし”を理解し、その人を支える営みであるということを、今回の学習会は改めて私たちに教えてくれました。
奨学生たちがこれから現場に出たときに、今日の学びが“まなざしの根っこ”として生き続けることを期待しています。