新入医師へのはなむけの言葉
~関口医師が語る「民医連で働くということ」~

2025年春、「全日本民医連関東地方協議会 2025年度 新入医師オリエンテーション」が開催されました。医師国家試験を終え、全日本民医連に所属する各医療機関に入職した新入医師たちが集い、医師としての新たなスタートを切る場となりました。

この日、栃木県民医連の会長である関口医師が、開会の挨拶に立ちました。40年以上にわたって民医連の現場で働いてきた自身の経験をもとに、「民医連で医師として働くとはどういうことか」――2つのエピソードを通して、温かく、そして力強く語られました。

 

 

社会を知る努力から始めよう

「私が医学部に入学したとき、社会のことを何も知らないことに気づかされました」

関口医師は、浪人時代の経験から「現実の社会を知らないことの怖さ」を実感したといいます。その経験が、医師として働くなかでも繰り返し自分に問いかけてきたのだと振り返ります。

「患者さんは、それぞれの現実の中で生きています。経済的な困窮、生活リズム、家庭環境――それらに目を向けずに治療を行うことは、時に独りよがりで、役に立たない、時には害を及ぼすことにもなりかねません」

たとえば、交代勤務の方にとって「朝食後の服薬」は何時のことなのか。複数の薬を管理することが難しい方に、きちんと薬を飲んでもらうにはどうすればいいのか――処方一つとっても、患者さんの背景に心を寄せる姿勢が求められます。

そして、経済的な困難を抱えた方にとっては、検査や治療の費用が生活に大きく影響します。医師としてその事実に無関心ではいられません。患者さんが抱える「暮らしのリアル」に寄り添う視点を持つこと、それこそが、民医連の医師としての第一歩であると関口医師は語ります。

 

 

弱さに向き合う勇気と、仲間の支え

もう一つのテーマは、「正義感の弱さにどう向き合うか」でした。

子どもの頃、物乞いの女性に対して差別的な言葉を投げかけてしまった記憶。逆に、自分の弟がその女性にお菓子を渡す姿を見て、幼心に深いショックを受けた経験。関口医師は、その時に感じた「自分の中の醜さ」は、今でも忘れられないと語ります。

「私は決して強い人間ではありません。困難を抱えた患者さんを前に、立ちすくむこともある。そんな時、民医連のチームに支えられるのです」

民医連の医療の特徴は、強い「チーム医療」にあります。看護師、ソーシャルワーカー、医療事務――様々な職種が互いに協力しながら、患者さん一人ひとりに寄り添っていく。その中で、医師として果たすべき役割に勇気を持って向き合える、と話します。

 

 

制度として支える医療を、仲間とともに

関口医師は、無料・低額診療事業をはじめとした民医連の仕組みづくりにも触れました。

民医連では、社会的に困難を抱える人々を支える体制を、個人の善意だけでなく「組織としての責任」として築いてきました。一人ではどうにもできない問題に対して、制度的に対応し、誰もが医療にアクセスできるように取り組んでいるのです。

「社会の貧困化、戦争への不安、気候変動――これらは医療と無関係ではありません。私たちは医師である前に、社会の一員としてこの現実と向き合わなければなりません」

民医連が政治的な課題に取り組む背景には、こうした視点があります。医師としての視野を広げ、医療の枠を超えたところからも健康を守る。これもまた、民医連の医療の大きな柱です。

 

 

最後に――民医連の医師として

関口医師は、挨拶の締めくくりとして、こう語りました。

「医師になったからといって、すべての知識や視野が備わっているわけではありません。でも、現実を知ろうとする姿勢、患者さんから学ぶ姿勢があれば、私たちは成長し続けることができると思います」

民医連の医師であることは、強さを競うことではなく、仲間と共に支え合いながら、一人ひとりに届く医療をめざすこと。新入医師たちにとって、この言葉がこれからの道のりを照らす一つの灯火となることを願ってやみません。

 

ようこそ、民医連へ。これから一緒に歩んでいきましょう。